『国家の品格』の著者が初めて書き下ろした自伝的小説
戦後の焼け野原を、ヒコベエがたくましく駆け抜ける
おしゃべりで腕白な少年ヒコベエ。ものごころのつき始めた三歳から小学校卒業までを、昭和二十年代の神田や吉祥寺の生活を軸に、毎夏訪れた両親の故郷・信州諏訪の様子もまじえて綴ります。
まだ戦争の傷跡の残る日本中が貧しい時代、どこの家でも女たちは家計のやりくりに忙しく、男たちは軍隊経験で気が荒い。そんな中子どもたちだけは元気いっぱいに遊びまわっていました。
口やかましいお母さんと威厳のあるお父さんに、時に褒められ時に怒られながら、ヒコベエは、考える・感動する・勇気を出す・がまんする・弱い者を守る・・・・・というように心を成長させていきます。
お母さん(藤原てい)が遺書代わりに大学ノートに綴った『流れる星は生きている』のベストセラー化、家計を助けるために懸賞小説に応募したお父さんが作家・新田次郎になってゆく様子なども家族の視線から活写されます。
なつかしい昭和の子供、貧しいけれどあたたかい家庭、みんなが一生懸命生きていた時代の風景が鮮やかによみがえってくる、今こそ必要な「家族愛」の物語です。
【あとがきより】
幕末から明治にかけて数多くの欧米人が日本を訪れ多くの印象記を残した。共通していたのは「皆貧しそうだが皆幸せそうだ」と一様に驚愕したことである。
そんな社会を私は、終戦後この目で見たような気がする。隣り近所でもわが家でも、ご飯に味噌汁だけの食事をしながら、いつも笑い声が絶えなかったのである。家族が支え合い励まし合い、近隣が助け合い、生きていた。このような強い愛と絆さえあれば、どんなに貧しくとも幸せと感ずるのではないか。昭和二十年代とは、どの家にもそれしか他に何もない時代だった。その中で日本人が、そして日本が輝いていた。
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