初の文庫版
貴族社会の噂話とエピソード
歌で綴る雅びの世界
「あはれ」の情感が色濃く漂う歌物語、『大和物語』は、10世紀後半に成立、173の章段からなる佳作である。王朝人の間に流伝した噂話や歌にまつわる逸話を集め、『源氏物語』『枕草子』『大鏡』等にも影響を与えた。失意と不遇、宇多天皇の退位・出家から話は始まり、としこや監(げん)の命婦(みょうぶ)など当時のスター的女性の歌が続き、宮廷を中心に悲しくも美しい魂の交流が語られてゆく。
『大和物語』は、通常173段から成る歌語り集である。宇多天皇のご退位、仏道修行に始まり、良峯宗貞(遍照)の出家と放浪に終わっている。その間に、上は天皇・皇族・貴族から僧侶、庶民、さらに女性では皇后・内親王から宮廷女房、遊女にまで及ぶといった各層の人物がちりばめられている。それらには主として失意と不遇の人生の中に、悲しくも美しい魂の交流がみられ、はかり知れない「あはれ」の情感が漂っている。――<本書「まえがき」より>
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