「蝋涙」既刊・関連作品一覧
- 電子あり
ひそやかな想い自伝的作品集
自らの軌跡を重ねて生の深奥を描く名作7篇。
記憶の底にある雪の夜の出来事から甦る若かった頃。
あなたの涙はさみしくて……
死者への語りかけは、私自身への語りかけである。私は、ふたたび真珠に向かって語りかける。
――大ちゃん、これはあなたの涙。大きな大きな涙。涙の玉の中に蝋の雫が散らばってるわ。いいえ、あれは雪。雪の中を遠ざかって行く男女のうしろ姿が見えるわ。上背のあるひとが小柄な娘を背負っているようだわ。身勝手な娘で、あくる日には背負ってくれたひとをわすれてしまったんですけど、あの夜はそのひとを慕っていたのよ……。――本文より