「庭の桜、隣の犬」既刊・関連作品一覧

  • 電子あり
庭の桜、隣の犬

夫婦ってなんだろう?愛でもなく嫉妬でもない、何かもっと厄介なものを抱えて、私たちはどこへ向かうのだろう?
傑作長篇小説

「そうちゃん、私いくとこないんだよ」房子は言った。自分たちのやっていることの馬鹿馬鹿しさを、そう言って房子ははじめて実感した。家はある。35年ローンの家がある。居間にも食卓にも無駄なものがいっさいない、清潔で静かな家はある。なのに自分はほっつき歩き、宗二は4畳半を借りている。「阿呆か」宗二は、自分の馬鹿馬鹿しさには気づかないふうで言う。――(本文より)