内容紹介
『続日本紀』には、708年「はじめて銀銭を行う」、「はじめて銅銭を行う」とある。和同開珎が日本初の貨幣という記述があるのはなぜか? なぜ、まず銀銭、その後銅銭が発行されたのか? 蓄銭叙位令がなぜ出されたのか? 『日本書紀』には、683年に「今より以後、必ず銅銭を用い、銀銭を用いる事勿れ」とは何を意味するのか? 政府が銅銭を流通させた(皇朝十二銭)目的を徹底的に探る。
以前からその存在は知られていましたが、1999年に奈良県の飛鳥池遺跡で発見された33枚の富本銭によって、683年頃に発行された日本最古の銅銭であることが確定されました。従来日本最古の貨幣とされていた和同開珎(708)以前に貨幣はあったのです。
しかし実際には、富本銭に先立つ貨幣として無文銀銭(銀の実体価値貨幣)が流通を担っており、その後も数世紀にわたって流通を続けていました。
『続日本紀』によれば、708年「はじめて銀銭を行う」、「はじめて銅銭を行う」として、和同開珎があたかも日本初の貨幣として発行されたかのような記述があるのはなぜか? なぜ、まず銀銭が発行され、その後銅銭が発行されたのか? また蓄銭叙位令のような貨幣流通を促すような法令が出されたのか? 一方で『日本書紀』には、683年に「今より以後、必ず銅銭を用い、銀銭を用いる事勿れ」と、上記と矛盾する記述もあるのはなぜか? 古代の貨幣をめぐって、謎が謎を呼ぶのです。
考古学が専門で、貨幣にも詳しい筆者は、文献資料と発掘資料とつきあわせてその謎を丹念に解いて行きます。また当時の鉱山の発見や大陸との関係も加味して推理を重ねます。すると古代における銀銭の役割と政府が銅銭を流通させることで(皇朝十二銭)、財政を強化しようとした事実が明らかになってきます。
日本古代貨幣史を塗り替える問題作です。刊行後15年を経て、その間に明らかになった事実も筆者の考えを補強するものでした。あらたに一章分加筆し、完全版として文庫化します。
原本:『富本銭と謎の銀銭 貨幣誕生の真相』(小学館 2000)
目次
- 学術文庫版まえがき
- はじめに
- 第一章 富本銭の発見
- 1 文献記録への疑問
- 2 江戸時代から知られていた富本銭
- 3 富本銭の再発見
- 4 飛鳥池遺跡の造幣所跡
- 5 富本銭の年代を推理する
- 6 富本銭の出土地
- 7 富本銭の七星の意味
- 8 厭勝銭ではなかった富本銭
- 第二章 最古の貨幣の追求
- 1 貨幣関係法令を読み解く
- 2 最古の貨幣についてのさまざまな説
- 3 考古学者の考え方
- 第三章 無文銀銭とは何か
- 1 最初の発見
- 2 崇福寺塔跡からの出土
- 3 無文銀銭の出土例
- 4 無文銀銭の年代を推理する
- 5 刻印と文字
- 6 無文銀銭の重量
- 7 無文銀銭は実用流通銭だった
- 第四章 和同開珎の真相
- 1 さまざまな和同開珎
- 2 無文銀銭と和同銀銭の交換比率が語るもの
- 3 養老六年のレート改定の意味
- 4 和同銀銭はなぜ作られたのか
- 5 無文銀銭の発行者
- 6 和同開珎銀銭と銅銭は等価だった
- 7 「和同かいほう」か「和同かいちん」か
- 第五章 日本の初期貨幣の独自性
- 1 中国の銅銭価値との比較
- 2 銅銭禁止の真の理由
- 3 銅銭の強化策
- 4 名目貨幣として作られた銅銭
- 5 私鋳の禁止
- 第六章 貨幣発行の歴史的背景
- 1 銀山と銅山の実態
- 2 歴史的背景
- 第七章 貨幣の誕生
- 1 貨幣とは何か
- 2 国際通貨としての銀
- 3 貨幣の誕生と初期貨幣の性格
- 4 琉球の開元通寶と中世の貨幣流通
- 5 覆された従来の研究
- 追加新章 藤原京『門傍』木簡の発見--さらなる展開
- 略年表と資料抜粋
- あとがき
製品情報
製品名 | 日本古代貨幣の創出 無文銀銭・富本銭・和同銭 |
---|---|
著者名 | 著:今村 啓爾 |
発売日 | 2015年05月09日 |
価格 | 定価:968円(本体880円) |
ISBN | 978-4-06-292298-2 |
通巻番号 | 2298 |
判型 | A6 |
ページ数 | 256ページ |
シリーズ | 講談社学術文庫 |
初出 | 本書の原本『富本銭と謎の銀銭 貨幣誕生の真相』は、2001年に小学館より刊行されました。文庫化にあたり改題し、追加新章を加えました。 |