今日、昭和が終つた。
穏やかな葉山の海に想ふ家族、戦争――新しい戦後文学
天皇陛下万歳はどうです、と私は言つた。ふだん坂西が喋りたがらない事を、喋らせてみたい気になつてゐた。天皇陛下万歳と叫ぶやうに教育されたものの、いざ死に臨めば動物的本能が働いて、お母さんを呼んでしまふ、そんな風に解釈すれば筋は通るけど、実際はどうだつたんです。知らんな、解釈なんて無意味だ、と坂西は素気なかつた。天皇陛下でもお母さんでもなく、弾が当ればみんなぎやあとも言はずに死んぢまつたよ、俺が知つてるのはそれだけだ。鼻の先で戸を閉てられたやうに、私は話の接穂を失つた。――(本文より)
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