江戸下町の人情の綾を描く
江戸・深川中島町、俗にいう澪通り。過去を秘めた心やさしい木戸番夫婦の胸を熱くさせる愛し、涙し、許しあう男と女たち。江戸下町のけなげに生きる人びとを描いた連作短篇小説集。
夜になると、川音が高くなる。木戸番小屋は澪通りの端、仙台堀の枝川と町の南を流れる大島川が1つになって隅田川にそそぐところにある。木戸番の笑兵衛は夜、町木戸を閉めてから緊急の用事がある者のためにくぐり戸を開けたり、夜廻りに出たりする。ところが町からの手当では暮らしてゆけず、女房のお捨が昼間、番小屋の土間を店にして荒物や駄菓子を売っている――今の東京・江東区永代2丁目、巽橋と練兵衛橋のあたりでの物語である。
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