演劇と映画への傾倒、肉体と陶酔の発見。
文壇の寵児としての華やかな交遊、結婚、子供の誕生というプライヴェートの充実、剣道とボディ・ビルへの熱中、演劇・映画への傾斜……作家が超人的な生活の中から何を思想の核として剔出するかを鮮烈に示す、昭和33年から34年にかけての日録「裸体と衣裳」、自らの文学的出発点と修業の日々を語る「私の遍歴時代」を中心に、日常と創作の往還から生み出された思索の結晶体、9篇を収録。
三島由紀夫
私に余分なものといえば、明らかに感受性であり、私に欠けているものといえば、何か、肉体的な存在感ともいうべきものであった。すでに私はただの冷たい知性を軽蔑することをおぼえていたから、1個の彫像のように、疑いようのない肉体的存在感を持った知性しか認めず、そういうものしか欲しいと思わなかった。それを得るには、(中略)どうしても太陽の媒介が要るのだった。――<「私の遍歴時代」より>
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