自分のなかに棲む他人──人格の解離はなぜ起きるか。幼女連続殺人・M被告の精神病理とは。最新の知見で心の闇を解き明かす。
多重人格者の責任能力──むしろ、問題なのは、多重人格患者の自殺傾向である。自分が虐待を受けたのを明確に覚えている人格がどこかにいるのであるから、苦しみのあまり自殺を図るのはもっともなことだ。現実に自殺企図や自傷行為は非常に多く多重人格患者に見られ、多重人格を示唆する所見の1つに数えられているほどだ。他の人から見て、あの人の性格からは考えられないとか、全く予兆がなかったとか、動機が考えられないなどと言う、いわゆる「魔がさす」自殺においては、多重人格でなくても、解離のメカニズムが働いている可能性は否定できないだろう。分裂病の患者などでも、殺人事件などを起こすとセンセーショナルに報じられるが、それよりはるかに多い数で、幻聴や妄想の苦しみのために自殺している患者がいるのである。多重人格患者に対しても、その診断を確実に下し適切な治療を行うことが、患者自体の生命を守るために大切なことだという側面も忘れてはいけないだろう。──本文より
多重人格は日本に伝播するか──日本でも多重人格が珍しい病気でなくなるのかどうか。まず考えなければいけないのは、多くの場合アメリカの文化病、精神病理は、10年から20年おいて、日本に伝わってきたことである。こういう病気が増えていくことがある種の社会の病理だということは、決して無視してはいけない問題だ。そして、さらに重要なことは、いじめられた子どもを支える家族のメンタルヘルスを確立することで、その予防が可能かどうかもそろそろ考えないといけない時期かもしれないということだ──本文より
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