日常生活の機微を、優しくも鋭いまなざしでとらえ、自由に、おおらかに作られて、江戸庶民の間で大流行した575の世界の機知あふれる詩情を読み、解き、楽しむ。
女房の抵抗――「近所ならこれ着なさいと意地悪さ」亭主が1人でモゾモゾと、良い着物に着替えはじめたので、女房が、「どこへ行くの」と尋ねる。「なに、その、ちょいと近所までだよ」近所までが聞いてあきれるョ。どうせ白粉を塗りたくった女のところへ鼻の下を伸ばしに行くんだろう……。女房の勘は百発百中なのだ。それでツンとして意地悪なアドバイスに及ぶ。「近所へ行くのなら、この普段着でいいでしょ」これが妻としては精一杯の抵抗なのだ。察するところ、夫はふだん家にいるようだし、経済的に家庭を困らせていないようだから、妻としては離婚調停を申し立てるべき段階ではない。この段階では妻ががまんするのが美徳というより当然の心得だった。――本書より
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