戦国も既に遠い泰平の時代、武士の道は「奉公人」の道となる。「志」を勧め、「名利」を説く「葉隠」に、治世を生きる人間哲学を読む。
「奉公人」への道──ひとは一般に、「葉隠」の語り手山本神右衛門常朝について、どのような印象を抱いているであろうか。なにしろ「死ぬ事と見付たり」の御本人である。あるいは言うかもしれぬ。彼こそは武の人、強者、古武士の典型なり、と。だが私の見るところはちがう。彼は文の人、弱者、分別ある治世の「奉公人」である。(中略)強い武士というものは、「勝つ」ことだけを考えて、いちいち「死」を覚悟したりなどしない。これに対し、弱者になればこそ「死の覚悟」によりみずからをふるいたたせる必要があるのである。──本書より
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