百万都市に集まる世界の巨富、コスモポリタンとして生きる人々。イスラームから世界史を読み直すシリーズ第1巻は、中東文明の継承者が世界文明をリードした時代を描く。
アーバン・ライフの達人たち――8世紀のイスラーム社会では、官僚や軍人の棒給はすべて現金で支払われた。これは驚くべきことといってよい……。これを実行するためには、現物で徴収された租税を商人に売り渡して現金に変え、この収入を基礎に精密な予算を組む必要があった。つまり、高度に発達した貨幣経済と官僚組織がすでに整えられていたのである……。イスラーム時代に入って、西アジアの都市はらさに洗練されたおもむきを呈しはじめる。市場は世界各地からもたらされた商品であふれ返り、現金さえあれば何でも買うことができた。遠隔地との取引をおこなう大商人は、現代の総合商社にも匹敵するといってよい。各地に代理人を派遣し、その情報にもとづいて有利な売買をおこない、その決済に手形や小切手が用いられた。豊かな生活を享受し、イスラームについての知識をみがくこと、これが都市に生きる人々の理想であった。イスラーム社会は、ヨーロッパに先がけて、都会的な生き方のマナーを身につけ、これを積極的に楽しむ人々を生みだしたのである。――本書より
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