長江下流域デルタ地帯、背後に広大な太湖、点在する湖沼、縦横に走る大小の運河、この水豊かな地に“大輪の花”のごとく栄えた古都・蘇州。その繁栄と衰微のさまをあとづけながら、東洋の水の都の運命を探る。豊かな水の恵み――江南の大小さまざまな都市のいずれもが水運を巧みに利用した形態をもち、その恩恵をたっぷりと受け取っていることは、都市形態や産物を見ればわかる。いずれの都市も交通および流通手段として水路を活用している。産物は魚や米。織物とて水がなくては良いものができない。場所は違うが名酒を産する紹興もまた水性豊かな一帯である。かくのごとく、水は江南のひとびとにたっぷりと恵みを施した。これは、近年も変わらない。近年の工業の隆盛もまた、豊かな水に頼っている。太湖の最近の産物に加わったものに淡水真珠があるが、これもまた水性豊かな一帯なればこその産品である。江南の豊かな水は、今日もなおひとびとに恵みを施し続けているのだ。――本書より
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