博物学、民俗学、性愛学、粘菌学、語学、エコロジー。自在に横断した広範な領域。学問で、人生で、さまざまに関わった人々や同時代人たち。奔放で骨太な、著述群。キーワード、人名、著作解題──200の項目で多彩に読み解く「南方熊楠」の全体像。
博物学──プリニウスから寺島良安に至るまで、南方の愛好した博物学者は、つねにその当時のさまざまな知識を総合化しようとしていた人物であった。……彼らの著作の中には、動植鉱物の客観的な性質の記述と共に、それらに関する伝承やイメージがふんだんに含まれており、その意味でそうした作品群は、自然科学書でありながら、同時にフォークロアの集積であり、さらに行動心理学、はては文学書としても読み得るものとなっている。博物学、Histoire Naturelleとは、まさに自然(Nature)をとらえるためにに人々が編み出してきたさまざまな種類の物語(Histoire)の集積だったのである。……物質のみにこだわる自然科学でもなく、心のみにこだわる精神主義でもない新しい学問方法の創造。南方はそうした自らの学問態度を「事(こと)の学」と呼んでいるが、博物学という名において蓄積されてきた知識こそは、その「事の学」の格好のフィールドだったのである。〔松居竜五〕──本書より
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