遺伝子主義、エリート教育、強制貯蓄、言語改造……。選び抜かれた頭脳集団による合理主義の「君子政治」。都市国家が生き残るために強要された「超管理」の現実。
国民生活への介入――「もしも政府が国民の個人的問題、例えば隣人が誰なのか、どうやって生計を立てているのか、騒音を出していないか、どこに唾を吐くのか、どの言語を話すのかなどについて干渉しなかったとしたら、今日の我々の繁栄はなかっただろう」これは、経済的繁栄を達成した1986年のリー首相の言葉である。この発言に象徴的にあらわされるように、シンガポール政府の国民生活への干渉・管理は、結婚・出産という家族計画にとどまらず、政治、経済、文化のあらゆる面に及んでいる……。国民の多くは政府の管理に反感を抱きながらも、シンガポールの生き残りと年々豊かになる自らの生活の代償に、管理を選んだのではあるまいか……。国際社会での生き残りと経済成長のために、さまざまな分野に及ぶ国家の管理体制を担ったのは、リー・クアンユー一家に代表されるようなエリートたちであった……。したがって、限られた唯一の資源である国民のなかから、いかにして優秀な頭脳を選び、育てていくのかが、シンガポールの生存と不可分とみなされたのも理解できよう。――本書より
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