学校へ行かず、自分の部屋に閉じこもってしまう登校拒否の子、学校へ行っても、おし黙ってしまう緘黙(かんもく)の子……。他人との関係をもつことを避ける彼らは、けっして自閉症ではない。基本的に関係のもてない自閉児の世界ははるかに遠い。どこまでが自分の領域で、どこからが相手の領域か理解できないからこそ、会話は成立しない。と同時に、情の部分が欠如して、論理だけの世界に住む彼らは、何重にも絡み合わされた複雑な人間関係も苦手である。本書は、オウム返しやクレーン現象、パニックや自傷など、自閉児のことばや行動から、彼らの心の中に光をあて、関係をもつための、狭いながら確かな通路を模索する。
自閉の世界に入りこむ試み――ついに10日目になって教師の忍耐もつきた。まさに頭にきたのである。そして、切りきざんだ紙をさらに裁断機で細かくし、部屋の中に放りあげ、まきちらした。半ばやけ気味になって、「雪やこんこ」を歌った。紙片が子どもの頭にふりかかった。子どもはそれを払いのけようとして手を伸ばした。その瞬間、二人の目が本当に合ったという。目が合ったという表現は、それ以外のいいようがない。……そして子どもは声もあげずに教師の背中にまわって、おんぶの姿勢になったのである。――本書より
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