イギリス人は、なによりもわが家をたいせつにする。彼ら一人一人が国王であり、女王であるこの城こそ、一羽の小鳥や移りゆく自然への愛を育み、ありふれたものの新しさを教えてくれる、人生の豊かな泉である。物質的繁栄とひきかえに、精神の荒廃を招いたわれわれ日本人が、彼らのコモン・センスから学ぶものは大きい。時流にまどわされず、ひたすら己れの道を歩むイギリス庶民のものの見方・考え方を、ユーモアとペーソスを混じえて語る、軽妙洒脱な英・日比較民族論。
父の手紙――こんにちの世界は、こんにちを代表する詩人T・S・エリオットがいみじくも名づけたように「荒地」の世界である。しかし、それだからこそわれわれは、時代の流れにさからって、残されたわずかばかりの、ますますもって貴重な土地をたいせつにすべきではないだろうか。その意味からして、私がいちばん尊敬する人物は私の父である。父が手紙でいっている気に入りのテーマを紹介しよう。「それが、一しずくの露のなかに宇宙を見いだし、手近なありふれたものの新しさを見なおす術なのだ。それができれば、不思議を求めて長いご苦労な旅をすることなどない。私は、アリといっしょに庭を横断するのでもけっこう楽しい。二羽のクロドリとかくれんぼをするのもいい。あの連中、じつにうまいものだよ……。」――本文より
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