砂漠とオアシスガ織りなす厳しさと恵み。西アジアは、そのなかで東西交渉の要衝として、独自の歴史世界を形成した。キリスト教とイスラム教に代表される、その文化は、世界各地に伝播し、現代に至るまで、多大な影響を及ぼしてきている。本書は、「肥沃な三日月地帯」に誕生した古代国家にはじまる、ペルシア、アラビア、トルコなどの民族盛衰のなかに、西アジア独自の歴史を鮮やかに描き出す。現代の民族主義の動きも見とおし、西アジアを世界史のなかにみごとに位置づける。
民族主義の創造――西アジアは過去において、種々の文明の交流のなかから数多くの先進文明を生み出し、ヨーロッパ・インド・中国にも影響を与えてきた。そこには常に西アジアの民族主義が作用していた。たとえば、ヨーロッパからヘレニズムが浸透し始めて2世紀余りたった紀元前後には、西アジア各地域に、それぞれの伝統に根ざす新しい自覚として当時の民族主義が芽生え、それがキリスト教を生み、さらに数世紀のちにイスラム体制をつくりだした。しかも、キリスト教はヨーロッパ文明に深い影響を及ぼし、イスラム文明は、ヨーロッパ近代社会の形成に大きな役割を果している。民主主義な、下火になることはあっても消滅することはなかった。それどころか、新しい文明の創造は、常に民族主義の高揚から出発してきた。――本書より
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