ユーラシア大陸を二分する北方の“蒼き狼”たちの遊牧草原国家と南方のオアシスを軸につくられた都市国家――その両者の対立・抗争と共存の歴史が、中央アジアを彩った歴史である。あるときはトルコ化し、あるときはイスラム化する草原とオアシスの民は、ティムールによる統一帝国の坩堝の中で、新しいユーラシア文明をつくりあげる。本書は、この歴史のダイナミズムを掘り下げながら、現代に至る諸民族の興亡と独立を明らかにし、中央アジアを把えるに必要な歴史観を提示する。
中央アジアにおける北と南――中央アジア北部の草原地帯と山間牧地の主人公は、群をつくる有蹄類の動物を追って、夏営地と冬営地の間を季節移動する遊牧民であり、南部のオアシス地帯の住民は、農業を主とする定住民であった。しかし、この相異なる生活様式をもった南北二つの住民は、相互に隣接して生活している以上、常に密接な関係に立たざるを得なかった。それは特に征服と被征服、支配と被支配の関係であり、また時には一方の文化の、他方の文化に対する優位と劣位の関係でもあった。また同時に、両者間の相互補完的な共存関係をもつくりあげた。――本書より
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