モンゴル帝国・元のあとに生まれた漢民族国家・明は、永楽帝のもとに巨大版図を築きあげる。農村工業の発展は庶民文化を花開かせた。しかし、北虜南倭、宦官の跋扈は次第に帝国を蝕み、女真族による中国最後の王朝・清が中国を征服する。辯髪で強く記憶されるこの国家は、アヘン戦争で敗れるまで長く世界に君臨した。本書は、従来の政治史のみならず、社会経済の新しい動向にも配慮し、中国史が誇る成熟した500年を、ダイナミックに考察し、中国的なるものを見事に解き明かした。
モンゴル親征――永楽帝時代を特徴づけ、またそれが中国史上の1つの輝かしい時代と称される理由は、帝によってくりひろげられた大々的な対外事業にあることは多言を要しないであろう。なかでも最大の事業は、「五出三犂(さんれい)」――五たび砂漠に出で、三たび虜庭を犂す(北虜の本拠を襲う)――といって当時の人々が自讃した永楽帝によるモンゴル族討伐の戦争であった。10世紀以来、北方民族に圧倒されつづけてきた中国人にとって、帝の遠征事業は漢民族の栄光をとりもどす壮挙と感じられたのであろう。しかし遠征の内容はそれほど讃えられるべきものではなかったのである。明帝国にとって北辺防衛は、成立当初から最大の課題であった。太祖は帝国成立と同時に、モンゴル族討伐の軍をおこしたが、全面的に勝利をえたわけではなかった。――本書より
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