唐帝国滅亡後の中国は五代十国に象徴される征服王朝が相次いで成立し、漢民族と遊牧民族との抗争の時代に入る。このめまぐるしい社会変動の中から、統一を勝ちとった宋は、生産力の増大、商人の勃興、王安石の新法と一大変革期を、つくりあげた。しかし、その間の党派争いや華北と江南の発展のひずみは、金の台頭、北宋の滅亡を招き、ふたたび中国は遊牧民族モンゴル帝国・元の支配下におかれる。本書は、この征服王朝600年の時代精神を解明する。
異民族に支配された中国――中国人はむかしから自らを夏とか中華と称して高度の文明をほこり、周辺諸民族を夷狄蛮戎(いてきばんじゅう)とよんで、軽蔑した。そして夷狄は中国に服従して文明の恩恵にあずかり、教化されるべきものとみられてきた。それが今や、中国人が「夷狄」に支配され、野蛮な異民族と見下していたものの命令に従わねばならなくなったのである。そうした境遇に身をおかねばならなくなったとき、中国の人々はどのように行動したのであろうか。さらに征服王朝の統治策が、それぞれ従来の中国諸王朝とは異なったものであるとすれば、それが中国の社会をどのように変え、後の時代にどのような影響を、及ぼしたのであろうか。われわれは600年にわたる宋・元の時代を、漢民族と異民族の対立抗争を軸にしてながめてゆきたい。――本文より
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