維新とともに開かれた新生日本の前途には、さまざまな難問が山積していた。文明開化の急テンポの歩みは、はなばなしい発展の影に、《遅れてきた国家》の苦悩を露呈していった。列強諸国との角逐は、国家の名のもとに資本主義の急成長を促し、戦争から戦争への綱わたりを余儀なくさせた。本書は、日本近代化の特殊性を掘りさげ、独走する権力に抵抗をつづけた民衆の栄光と悲惨を軸に、明治から大正への多難な歩みをまざまざと描きだした。
「大日本帝国」のまぼろし――新しい日本は、外圧にさらされて登場しただけでなく、アジアでおくれて近代化しようとした数少ない国家だった。国内変革は通説以上に、かなり徹底しておこなわれようとはしたが、日本の国力の自前だけで、欧米列強に対抗することはできなかった。明治・大正・昭和の歴代の政府は、この矛盾をたえまない対外侵略と戦争とによって切りぬけようとしたのである。政府はこの戦争から戦争への綱わたり、戦争の自転車操業のあいだに軍部と官僚制を肥大化させ、国民とアジア民衆を抑圧しつつ、世界の「一等国」へのコースをひた走りに走っていったのだった。もちろん日本国民は、この一連の戦争に意識的、無意識的に抵抗はし続けたが、同時に、すくなからぬ部分が勝利の幻影に酔い、「大日本帝国」のまぼろしに加担したことも避けてとおることはできない。ここに近代化に成功した日本民衆の栄光と悲惨がある。――本書より
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