「アーレント 最後の言葉」既刊・関連作品一覧

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アーレント 最後の言葉

1975年12月4日、ニューヨークの自宅で、ハンナ・アーレントが急逝した。享年69。死因は心臓発作だった。
自室の机に置かれていたタイプライターには1枚の紙がかかっており、そこに何行か印字されていることが、すぐに気づかれた。
その第1行には「判断(JUDGING)」とある。これはアーレントの遺著となった未完の三部作『精神の生活』の第三部の書名であることがヘッダーの部分に記されている。この大著の第一部「思考」と第二部「意志」は原稿がほぼ完成した形で残されていたため、死後出版された。しかし、第三部「判断」のためにアーレントが執筆した言葉は、この1枚だけである。
その紙片には、タイトルに続いて二つの銘が置かれ、そこで途絶えている。
第一の銘として引用されているのは、ローマ帝政初期の詩人ルカヌス(39-65年)の『内乱』の一節。表題のとおり、これはカエサルとポンペイウスの対立を軸とするローマの内乱を描いた作品である。そして、第二の銘として引用されているのは、ゲーテ(1749-1832年)の長編詩劇『ファウスト』の一節である。
タイトルと二つの銘だけから成るこの最後の言葉は、いったい何を意味しているのか? 二つの銘が並べて引用されていることの意味は何か? そして、このような始まりとともに執筆が開始されたライフワークの最終作は、どんな書物になるはずだったのか?
手がかりはあまりに乏しいように見える。しかし、著者はここにあるルカヌスの一節をアーレントが人生の中で何回も(少なくとも8回は)引用してきたことに気づく。その一つ一つを丹念に調査し、それぞれの箇所でこの一節に付与された意味を読み解いていくと、アーレントの出自と結びつく問題系に結びついていることが見出された。それは同時に、アーレントにとって決して消せない影響を与えた男たち──クルト・ブルーメンフェルト、カール・ヤスパース、そしてマルティン・ハイデガーの記憶と交錯し、ゲーテから引用された第二の銘とも関わっていることが明らかになっていく。
アーレントが残した謎を解き明かしていく本書は、その過程で通説とされてきた伝記上の事実をも鮮やかに覆し、これまで誰も知らなかったアーレントの姿を描き出す。気鋭の著者によるスリリングにして刺激的な論考!