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三国志と日本人

どうして日本人は「三国志」が好きなのか。本家の中国では極め付きの悪人とされている曹操が、なぜ日本では人気なのか。「日本書紀」からゲームソフトに至るまで、日本人の心をとらえ続ける三国志の魅力に迫る。

父祖代々の『三国志』
お膝元の中国での『三国志演義』の親しまれ方と日本のそれとはかなり違う。乱暴に要約すると、中国人は芝居から入り、さらにむかしは、寄席の講談によって親しんだ。芝居は人物を思いきってタイプ化する。『三国志演義』の曹操といえば、白塗りの極め付きの悪人であるから、芝居で親しんだ長い伝統を持つ中国人から、曹操悪玉の印象は容易にぬぐえない。
その点、日本人は江戸時代以後、主に挿絵入りの書物によって『三国志演義』に親しんだから、かなり分析的に人物を見ている。とくに吉川英治の『三国志』は、曹操を魅力的に描いており、これがロングセラーとなったものだから、日本人に曹操好きが多いのも無理のないところである。
ざっとこのように『三国志演義』への親しみ方自体に、中国と日本の違いが明らかだか、江戸時代以前に、日本人の上層部には正史の『三国志』へのかなり長いアプローチの歴史があった。極端にいえば、日本史の各時代に、いつも『三国志』が、なんらかのかたちで影を落としていた。その歴史の跡を述べようとするのが、わたくしのねらいである。――(本書より)

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