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ケインズとハイエク―貨幣と市場への問い

30年代の「世界恐慌」。その原因や対処法をめぐりケインズとハイエクは論争を繰り返した。リーマンショック後の「世界的経済危機」の核心を探るため、経済学史に偉大な足跡を残した知の巨人の共通認識と対立点を徹底比較する。資本主義に社会主義的な計画経済を導入したケインズ、自由主義経済の擁護者ハイエク。「貨幣・価格・生産」「慣行と模倣」「便宜と法」などの論争は現代的示唆に富む。


ケインズとハイエクが対照的な経済学者とみなされているという通俗的理解は、ここ数年覆されている。ケインズとハイエクは新古典派のタームでは語りえない重要な思想を掲げ、しばしば論争を繰り広げた。
二人は晩年、自らを反共産主義且反保守主義と位置づけている。対立の論点は、その中間にどのように自由主義を配置するかをめぐるものだった。
ハイエクが著した『隷属への道』での主張、「設計主義、社会主義的計画化には反対するが、それは自由放任主義とイコールではない」「自由競争を促進、有効にするためには法的構造を整備する」にはケインズは賛辞をおくり、またケインズの考えもほぼ同様のものであった。
現在の経済状況を鑑みて、対立点をあげると、たとえば「市場」。
ハイエクは市場を複雑なシステムの一つ、とりわけ分散する知識の処理装置とみなした。模倣と慣行を維持することで、一部の人が保持する将来への期待や分類法が淘汰され裏切られる。市場は社会を無数で多様な知識に対して適応させる。その適応を狂わせ恐慌をもたらすのが政策的な干渉、とりわけ金融政策だと見立てた。
ケインズによれば、不安定なのは市場そのものである。市場は、いわば自生的に無秩序でありうる。それに秩序を取り戻させるのが経済政策だという見方となる。
そのような二人の共通認識と対立点を徹底比較、論考する。
ヒュームやバークなど経済に影響をあたえた古典思想にも言及、現在の日本社会が抱える問題点を経済思想史の視点から考察する試みでもある。
該博な知識をもってなる松原教授ならではの「資本」論や喫緊の課題である「金融市場への不安」も主たるテーマとなる。
ケインズとハイエクが論争を重ねた30年代と同様に、危機的状況が続く世界経済。流動性の罠に陥っている経済の現状と人々の不安とは何か。21世紀の世界的経済危機と迷走する社会思想を歴史に残る巨人の経済学的知性で読み解く。
サブプライム危機とリーマン・ショックを経て、アメリカの覇権と基軸通貨であるドルの威信は落ちた。グローバル・インバランスが揺らぐ現在、本書の刊行には大きな意義がある。