愚かなまでに清い吉田青年の純粋さに憧れる人々は、彼を中心にしたサークル活動を開始。平等な社会の実現を目指し、誰もが憎しみや貧困から逃れられるという「繰り返しの作業」に没頭する。一方、不幸せな結婚に向かうユキに惹かれる吉田青年は心を襲う初めての感情に戸惑う。“聖なる愚か者”の恋のゆくえは。芥川賞・三島賞・野間文芸新人賞受賞作家の最高傑作。(2012年6月、講談社文庫として刊行)
愚かなまでに心の清い青年への憧れから、人々は彼を中心としたサークル活動を始める。
ある者は名前を書き続け、ある者は椅子を磨き続ける。
過酷な「繰り返しの作業」の果てに、平等な社会(ユートピア)は生まれるか。
世にも滑稽な“聖なる愚か者”吉田青年の、恋のゆくえは。
愚かなまでに清い吉田青年の純粋さに憧れる人々は、彼を中心にしたサークル活動を開始。平等な社会の実現を目指し、誰もが憎しみや貧困から逃れられるという「繰り返しの作業」に没頭する。一方、不幸せな結婚に向かうユキに惹かれる吉田青年は心を襲う初めての感情に戸惑う。“聖なる愚か者”の恋のゆくえは。
「単純な繰り返し作業ならなんでもいいんです。君は神学生なのですから、教会の椅子の掃除などはどうですか? 一つ一つ、椅子に座っている信者さんの顔を思い浮かべながら、椅子を磨くんです。最初は退屈で過酷な労働かもしれませんが、やがて、僕のように甘美な気持ちに包まれることでしょう。だけど、この作業には一つだけきまりがあるんです。それは、この作業をしていることを秘密にするということなんです。僕の宛名書きの作業は、人に見られてしまいますが、心の中を甘美な気持ちで満たす、その作業の実践をしていることは、同僚には秘密です」(本文より)
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