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李世民

田中芳樹
これが処女作?冗談だろう。確かな筆力という名の風に乗って黄土の大地を疾駆する群雄の叫び声が聞こえてくるようだ。

唐の太宗・李世民が大陸の覇権をとるまでを描く中国歴史小説

それは、ほとんど一目惚れであった。あれから5日はたっているというのに、思いだすと自然に笑みがこぼれる。生涯の主君を得た、と徐世勣(じょせいせき)は感じていた。反隋の兵をあげて8年、ずいぶんとまわり道をしたような気がする。(中略)平伏して待つ徐世勣の耳に、足音がとどいてきた。力強さをうちに秘めた、律動的な歩調。それは、あとにつづく者にかぎりない安心感をあたえるひびきであった。やがて、足音は目の前でとまり、やわらかな声が頭上にふりそそいだ。「待たせてしまったようですね」李世民が徐世勣の手をとり、立ちあがらせる。徐世勣はことばをうしない、ただふるえていた。体中の血があわだつほどの昂揚感に、両のほおがほてっている。ずっと前から、このときを待っていたような気がした。――<本文より>