「北斗の銃弾」既刊・関連作品一覧

北斗の銃弾

幕末の怪物的侍!鮮やかな傑作長篇
鋭い現代感覚が切りひらく幕末の政治的謀略。海から来た男の怪物性を描く出色の時代長篇!

(なにゆえ、いままで思いつかなんだか……)町方の者に混じって、渡し舟に揺られる釐三郎(りんざぶろう)は、みずからを責めた。その後ろから傘をさしかけているのは、松井音四郎である。しとしとと降る時雨にも、明るさの消えぬ空は、春色というものであろう。遠く雷鳴が聞こえる。人間、万策尽き果てたと諦めたときこそ、天啓というべき閃きを得るものではあるまいか。──向島の隠居とよばれるその人に、釐三郎は正面からぶつかるつもりであった。渡し舟は、白鬚の渡しの左岸の上り場へ着いた。このあたりを寺島村という。──どれほど待たされたであろう、正面の門扉が内側からゆっくりと八の字に開かれた。釐三郎も音四郎も、あっと声をあげそうになった。門内に2人を出迎えたのが、女たちだったからである。──本文・城中総下座より