思考の力で〈世界〉と対峙し、惜しまれつつ逝った批評家、加藤典洋氏。
「愛着深い本」と語った本書は、生前最後の文庫となった。
文庫版あとがきと自筆年譜に、氏の最晩年の胸のうちが綴られる。
「ようやく私は一人の「老人」になることができたと思っている。(中略)「老人」とは世を捨てることではない。「若い人」を助ける「一歩身を引いた」、「自分の分限を知った」社会的人間のことである」
(「著者から読者へ」より)
「人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きていさえすればいいのよ。」(「ヴィヨンの妻」)
四度の自殺未遂を経て、一度は生きることを選んだ太宰治は、戦後なぜ再び死に赴いたのか。
井伏鱒二と太宰治という、師弟でもあった二人の文学者の対照的な姿から、今に続く戦後の核心を鮮やかに照射する表題作に、そこからさらに考察を深めた論考を増補した、本格文芸評論の完本。
與那覇潤
太宰や三島はだれもが認める「極端な人」だが、井伏のように恬淡に徹しきる人もまた別の極端なのだ。凡人たるわたしたちはひっきょう、太宰と井伏のあいだに広がる人間的な、あまりに人間的な原っぱを、ねじれながら生きていくしかないのだ。実質的に太宰論である本書にあえて附された『太宰と井伏』のタイトルを、ぼくはそうしたメッセージとして受けとる。 (解説より)
目次
太宰と井伏 ふたつの戦後
太宰治、底板にふれるーー『太宰と井伏』再説
解説 與那覇潤
年譜
著書目録
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