是枝裕和作品『花よりもなほ』読本
是枝時代劇、誕生!
「『誰も知らない』を作りながら考えていたのは、次は楽しい嘘をついてみたいということでした」。「最初で最後のメッセージ映画になった」と監督自ら語る青春時代劇。秘蔵写真から絵コンテ、未公開資料などでそのすべてを綴る決定版!
この長屋の空間は、貧しいし汚いし臭いし、客観的に見ればそれこそ『どん底』なんですが、そこに、ある「すき間」があって、その象徴として孫三郎とこども達がいる――というように見えたいな、と思っています。武士が漢字ならひらがなの世界。それで傾斜と曲線というのにこだわっています。――是枝裕和「監督通信」より
「この映画、なんだろう?」「いったい、どんな映画なんだろう?」見た人にそう感じさせる力をその写真が持っていること。映画館に足を運ばせるくらいの力がその写真にあること。これがスチールの究極の役割でしょう。つまり、映画一本分の魅力を体験させるような写真。僕が今も手探りで追い続けているのはそういう写真なのでしょう。不可能かもしれません。でも目の前に繰り広がる現象からそんなイメージを切り取ることは、永遠に追求したとしても飽きることはないのです。――鋤田正義
宗左という男のあの貧乏長屋での日々は、“時間がやさしかったんだろうな”と思います。目に映る状況は悲惨ですよね。崩れ落ちそうな家。ぼろぼろの服。カネなどあるわけない。人が腹を切っても誰も驚かない……。でも、宗左はこの長屋で人とのつながりを体験する。自分の運命を受け入れて、他人を許し、弱い自分を許し、嘘を突き通すんだけど「生きていないと意味がない」という道を選ぶ。そうすることができたのはこの長屋での<時間>のせい。この経験を僕自身、同時にしたんだと思います。――岡田准一
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