1973年、フランス放送協会の要請を受けて、フランスの精神分析家ジャック・ラカン(1901-81年)は、テレヴィ番組に出演した。
「フロイトへの回帰」を唱え、パリの地で精神分析の中興の祖となったラカンは、当時すでに世界的に知られる存在だった。しかし、「想像界」、「象徴界」、「現実界」など、魅力的でありつつも理解するのが困難な用語の数々に示されているとおり、その思想は難解を極めるものであることもまたよく知られている。博士論文を除けば唯一の著作である『エクリ』(1966年)は、そう簡単に近づくことのできない巨峰である。そして、1953年から1980年まで行われた『セミネール』もまた、講義で語られた言葉の記録ではあるものの、容易な理解を許すものではない。
そんなラカンが、テレヴィ番組に出演し、愛弟子ジャック=アラン・ミレールの質問に答える。多岐にわたる質問がなされ、明晰で厳密な回答が返される。しかし、ラカンが語りかけているのは、あくまで一般の視聴者であり、その言葉は他では見られない平明さを帯びている。
工夫を凝らされた訳文を全面的に再検討した決定版である本書は、まさに最良の入門書である。ラカン思想の真髄をポケットに!
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