脚の故障でバスケ選手の道を断念した堤(つつみ)裕司(ゆうじ)は、幼馴染の里穂(りほ)に誘われ民俗学研究会の調査旅行に参加する。訪れたのは天女伝説が残る静岡県中部の田舎町、比良賀(ひらが)町。町の伝統行事「羽焚(はねた)き祭」に参加した夜、ひとりで町へ出た裕司は片翼の天女・妃沙子(ひさこ)に出会う。彼女は不思議な力で裕司の脚を治すが、一行が町を出る朝事件が起こる……。
知ってはいけない、禁断の伝説
最恐伝奇ホラー
鈴の鳴るような音がした。顔を上げた、そこに。小さな女の子が一人。石垣の上に腰を下ろして夜空の月を眺めていた。流れるような、黒く艶やかで癖のない髪が腰の位置にまでたなびく。月明かりの下に青白く映える白いワンピース。素足にサンダルを履いた少女。年の頃は中学生、あるいは小学校高学年ぐらいにも見える。大きな目。月明かりを映しこんで宝石のように輝いていた。
「お前」いったい何だ。何者だ。
「――妃沙子(ひさこ)、という」
願いの成就と引き換えに埋め込まれる天女の羽根。その代償はあまりに大きくて……
「あのな、俺もうここには来られない」
脚の故障でバスケ選手の道を断たれた堤裕司は、幼馴染の里穂に誘われ民俗学研究会の調査旅行に参加する。訪れたのは天津人(天女)伝説が残る静岡県中部の田舎町・比良賀町。町の伝統行事「羽焚き祭」に参加した夜、ひとり町へ出た裕司は片翼の天女・妃沙子に出会う。彼女は不思議な力で裕司の脚をもとどおりに治し、彼を喜ばせるが――。一行が町を去る朝、その事件は起こった。
「――主、妾(わらわ)から離れられると思うとるのかの?」
+ もっとみる