解体と再編の歴史から、現代を読み解く
未曾有の世界帝国は、「アメリカ喪失」から始まった
連合王国にとって、アメリカを失うという経験こそが、19世紀、ヴィクトリア朝の帝国ネットワークを築く画期となった。奴隷貿易の支配者から博愛主義の旗手へ、保護貿易から自由貿易へ。植民地喪失と帝国再編に揺れ続けた国民のアイデンティティ。帝国となった島国の経験とは、どのようなものだったのか。
■イラク、アフガニスタン、アイルランド…現在の世界が抱える問題の根幹に触れる
アイルランド、インド、オーストラリア、カナダ、南アフリカ、中東、香港……世界中いたる所にその足跡を残した大英帝国。この拡大は、紅茶や石鹼などの生活革命を世界的に広める一方で、時には深刻な問題の種を植民地に蒔く結果ともなり、その影響は現代にまで及んでいます。大英帝国を知ること、それは「今を知る」ことに他なりません。
■大陸の片隅にある島国の「帝国への伸張」は、「アメリカ独立」から始まった!
これまでイギリス史のうえで「例外的なエピソード」として捉えられてきた「アメリカの独立」。井野瀬氏はこの出来事以前と以後のイギリスという帝国の性格の違いに着目し、むしろこの喪失の「経験」こそが、のちに未曾有の発展を遂げる大英帝国の基礎になった、と述べています。保護貿易から自由貿易へ、奴隷貿易の支配者から博愛主義の旗手へと変容を遂げた帝国の内実が、手に取るように理解できます。
■今なおイギリスを揺さぶる「奴隷貿易」の過去
昨今、わが国では従軍慰安婦問題が取り沙汰されていますが、奴隷貿易廃止法制定200周年にあたる2007年、英国では「奴隷貿易の支配者」であった過去を踏まえ、「謝罪」のあり方について、国民の間で議論が沸騰しています。イギリスでは欧米諸国に先んじて奴隷制度が廃止されましたが、本書には、どのような人びとが尽力し、どのような経緯を経て、またどのような事情から廃止に至ったのかが、生き生きと描かれています。
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