黒皮の長手袋をはめ、威風堂々としている「おおばあ」こと、ぼくのおばあちゃん。父さんのいないぼくは、おおばあと母さんに育てられてきた。おおばあの古い一軒家。おおばあが飼っている黒い日本犬、ぼくの親友のヤジロベエ。おおばあに教わった「呼吸(いき)合わせ」。眠り続ける少女。中学生になってからの少女と「再会」。ぼくは本当に「呼吸を合わせる」こと「生と死」の意味を知る。色鮮やかな「ぼく」の成長物語。
雑然と生い茂る庭にそびえたる古い一軒家。「おおばあ」ことぼくの祖母はここに一人で暮らしていた。黒い革でできた頑丈な長手袋を常に身につけ、威風堂々としているおおばあ。その家の庭には、檸檬の木、枝垂れ桜、木蓮、枇杷の木、南天、花水木・・・てんでばらばらに木々が埋めつくしていた。
ぼくはこども時代のほとんどをこの古めかしい家ですごし、赤頭巾ちゃんに出てくるオオカミみたいに大きな口と大きな目と大きな耳を持つおおばあといつも一緒だった。
ぼくに父さんはいない。
いつの頃からいなくなったのか、ぼくは知らない。母さんもおおばあも父さんなんてはじめから存在していなかったかのように振る舞っている。ぼくたちの間で父さんの話はご法度だった。
おおばあの家にはいつも誰かしら訪れていた。
おおばあが不思議な力を持っているからだ。相談に来た人は何かしら、そのときのお礼の気持ちをおいていく。いえの中はガラクタでいっぱいだった。
そんなある日、ぼくは病院で一人の眠っている少女に出会う。彼女と呼吸を合わせている内に、ぼくは彼女の夢の中に入って行った・・・・・・。
「眠りは安息をもたらすよ。明日へのエネルギーを蓄える糧となる。夢の世界は束の間の世界だ。束の間だからこそ幸福でいられるんだ。夢の世界に長くいちゃいけない。取り込まれてしまうからね。エネルギーは外側ではなく内側で全部使われてしまう。長く長く続く夢はあの子から体力を奪っていくだろうよ。そして夢か現実か判らないまま彷徨い続けることだろう。帰れなくなるんだ、永遠に」
――祖母との交流、母子の関係、父の秘密、そして友情。「呼吸」の意味を知る、ぼくの成長物語
ワルプルギス賞で人気を集めた、片島麦子のデビュー作。
+ もっとみる