主人公の五月が友人の結婚式で出会った栗原健太は、「女は結婚したら、家庭に入るべきや」などというド古臭い考えの男で、お互いに友人代表のスピーチの時から言い合いになる。しかし、喧嘩のできる仲というのはなかなか面白い――。そんな素直な気持ちになってきたとき、ある悲しい出来事が起きる。自分にとって大切なものをふり返ることの出来る恋愛小説。
「読んだ人は、この小説が2012年の今、復刻して出版されることの意味を、胸に刻まれるに違いない」と柴崎友香氏が解説に書いたように、今こそ読むべき恋愛小説が復刊された。
主人公の五月は25歳。市役所の広報課につとめる、「女は結婚しても仕事するぞ!」と思っている元気な女性だ。五月が友人の結婚式で出会った栗原健太は、「女は結婚したら、家庭に入るべきや」などというド古臭い考えの男で、お互いに友人代表のスピーチの時から言い合いになる。しかし、喧嘩のできる仲というのはなかなか面白い――。会えば必ず喧嘩になるのだけれど、会わないでいるとつい話したくなり、会いたくなる二人。しかしその五月に「栗原さん、紹介してくれへん?」と美人の友人が言ってきた。
「人間の住むとこは、バイキンもなかったらあかんねン」と語る五月の町の住人たちと、町づくりの話をしていくと、町も恋も、潔癖なものなんておかしいと思えてくる。そんな気持ちに気づいたとき、栗原の村で悲しい出来事が……。
五月の父は五月に言うシーンがある。
「夫婦は戦友やから、味方になってくれるのん、夫婦だけや。味方が一人もおらへんというのは辛いからなあ。(中略)どっちか一方だけ、いうのはあかん。味方になる、いうのはそういうことや。世間がみな責めても、お前の旦那だけは、お前の味方になったら嬉しいやろ。男かて、そう思う。女房だけは味方になってくれる思たら、やる気ィ出てくる。(中略)真実は、女は男の防波堤でもあるんや。防波堤は大事にせな、いけません。修理工事もたびたびしとかんと、穴があいたら崩れてしまう。防波堤さまさまや」
あなたにとって、防波堤は何だろう。誰かかもしれない。場所かもしれない。仕事かもしれない。田辺聖子がやわらかくも鋭い言葉で伝える文章は、心地よい。
自分にとって大切なものをふり返ることの出来る、恋愛小説だ。
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