中原の小国・永依は、滅亡の危機を迎えていた。少女ラタは、父親の死後、クシカ将軍の養子となり、12歳で迎えた初陣で「破壊神」の名にふさわしい戦いぶりを示す。N県稗南郡稗南町には由宇という少女がいた。15歳の誕生日の前日、大好きな父親が「らた」「えっくすぜろわん」と言い残して急死すると、黒づくめの男たちが稗南町を急襲した。なぜ襲われたのか? 父の死との関係は? 由宇の命は?
中原の小国「永依(えい)」は、火国、勃国の2大国に挟まれ、滅亡の危機を迎えていた。ラタは、永依で身分の低い両親のもと3人きょうだいの長女として生まれるが、父親の死後、クシカ将軍の養子となった。戦士に必要なあらゆる技を体得したラタは、12歳で迎えた勃国との戦いで、「破壊神」の名にふさわしい戦いぶりを示した。
一方、N県稗南(ひなん)郡稗南町には由宇(ゆう)という少女がいた。15歳の誕生日の前日、大好きな父親が「らた」「えっくすぜろわん」と言い残して急死する。すると、黒づくめの男たちが稗南町を急襲し、破壊した。由宇は、敵から逃れる途中で、母親から「X-01は人間が創り出した最も大きく、激しい恐怖」と教えられる。
運命に翻弄されるラタと由宇。2人の行く手に待っているのは?
目次より――
1 地獄の底から
2 天空からの光は
3 生と死の交差する場所
4 鬼神の宴
「第1章 地獄の底から」より――
草原は兵に埋め尽くされていた。
敵の、だ。
敵、火国の軍旗がはためく。
火を噴く獅子の紋章は、風に揺れ、獅子そのものが猛り狂っているように見える。旗音は西から東に吹き過ぎる風に乗って、永依国の陣まではっきりと届いてきた。
まさに、咆哮だ。
圧倒される。
永依の兵士たちは、血の気の無い顔で押し黙り、身を縮めていた。犲虎が自分たちを食い千切り、餌食にしようと狙っている。口にこそしなかったが、あるいはできなかったが、自分たちを兎のごとく感じ、おびえ竦んでいたのだ。
「不味いな」
リャクランが干し肉をかじりながら、呟いた。
「ちょいと不味いぞ、ラタ」
「どっちがだ」
「うん?」
「干し肉か戦況か、不味いのはどっちだ」
リャクランが肩を竦める。口の中の肉を飲み下す。
「こういう状況で冗談が言えるとは、さすがに『漆黒の鬼神』だけのことはあるな」
ラタとリャクラン。
永依国の武将と軍師であり、十歳に満たないころからずっと、寝食を共にしてきた間柄だ。
友ではない。仲間でもない。むろん、恋人でも愛人でもなかった。(以下、本編にて)
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