丸山眞男(1914-96年)は、戦後日本を代表する知識人である。その政治的著作は敗戦直後から多大な影響力をもち、丸山は「戦後民主主義」の象徴となった。本書は、その全主要著作を通覧し、解説する絶好の概説書である。しかし、丸山を生涯にわたって貫く原理である「丸山眞男の哲学」を発見し、それを前提に著作を読んでいく中で、本書は驚愕の結論に到達する。──丸山眞男は、1960年にはすでに「敗北」していた。
丸山眞男(1914-96年)は、戦後日本を代表する政治学者として名を轟かせ、今も多くの人に読み継がれている。日本が敗戦を迎えた直後に発表した論文「超国家主義の論理と心理」で天皇制の精神構造を批判して華々しく論壇に登場した丸山は、「戦後民主主義」を象徴する存在となった。
本書は、没後20年を迎えた不世出の学者の全容を、これまでになかった視角から解き明かそうとする野心作である。
本書のキーワードとなるのは「丸山眞男の哲学」である。政治学の著作で知られる丸山だが、その本領は日本思想史にあった。一見、直接の関係を見出しにくい両者を一貫して支える丸山の原理を、著者は「哲学」という言葉で表現し、追求していく。
その原理を踏まえながら、丸山の代表的な著作を通覧していく本書は、最良の入門書・概説書としても読むことができるが、そうして愚直に作品を「読む」ことで明らかになる結論は、まさに驚愕をもたらすものである。──政治学者としての丸山眞男は、1960年にはすでに「敗北」していた。
戦死者の亡霊がそこかしこに漂っているのを意識しながら戦後を開始した丸山は、やがて日本が目覚ましい復興と成長を遂げ、さまざまな意味で余裕を獲得した結果、人々の関心が経済や私生活に移っていくにつれて、闘志や焦燥感を失っていった。その結果、政治的な言論活動に対する意欲を失い、40代半ばにして半ば隠遁するように日本思想史研究に沈潜していく。しかし、それはひとり丸山の「敗北」であるだけでなく、ほかでもない「戦後民主主義」の「敗北」である、それが著者の結論となる。
戦後70年を迎えた日本は、憲法改正が現実味を帯びた話題になっているように、「戦後」や「戦後民主主義」を振り返らざるをえない状況に置かれている。丸山の歩みと「敗北」を知ることは、まさしく「戦後日本」の起源と歴史を知ることである。それは、いまだ現在進行形の「戦後」を生きていく上で不可欠な思索のきっかけになることだろう。
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