優しくなんか、しなくていい……。 おまえの飼い主は俺だけだ。 近づいてくる男の気配を感じ、成見(なるみ)が座ったまま後ずさると、彼は身を屈めて耳元に唇を寄せてくる。 「――君が欲しいんだ」 ぞくっとするほど低く穏やかな声が、成見の鼓膜を震わせていった。 予備校生の成見智彰(ともあき)は、渋谷の街で不審な男に勧誘される。強引につれていかれたビルの地下で男の口から囁かれた言葉に、成見の心は捕らわれて――。