野崎は高校を卒業して一人暮らしを始めた。ある雨の日「Yuregi Detective Office」と看板がある部屋の前で、女の人が一人で煙草を吸っていた。「あの、もしかしてここの事務所の方ですか」「そうよ」「探偵さん……ということですか?」「そうなるわね」「すごいですねえ。あの。探偵さんってことは、推理とか、するんですか?」「まあね。あなた、もしかして最近、新しく靴を買ったんじゃない?」
野崎は高校を卒業し、アパートの三〇一号室で一人暮らしを始めた。ある雨の日、「Yuregi Detective Office」と看板がかけられた二〇二号室の前で女の人が一人で煙草を吸っていた。
〈探偵さんか? それとも、依頼人さん?〉
野崎はつい一言、
「あの、もしかしてここの事務所の方ですか」
と尋ねた。
「そうよ」
「探偵さん……ということですか?」
「そうなるわね」
「すごいですねえ」
何がすごいのかは分からないが、珍しい職業というものは、その存在だけで何やらすごいように思えるものだ。
「あの。探偵さんってことは、推理とか、するんですか?」
野崎は、冗談めいた質問を投げた。探偵ってどんなお仕事なんですか、という質問でもよかった。少々掘りさげたかったのである。
問いを受けた彼女は、煙をくゆらせつつ、答えた。
「まあね」
そして、なんでもない調子でつけ加えた。
「あなた、もしかして最近、新しく靴を買ったんじゃない?」
なんとゆかしき“ホームズ流!”
かくして大学生の野崎と、雨女探偵・揺木茶々子(ゆれぎちゃちゃこ)の探偵活動がはじまる。
読むと中毒になるモリカワミステリ、どうぞご堪能あれ。
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