浅草芸人たちの、軽演劇で練られたコント。エンタツ・アチャコの、自由自在に脱線するボケ。コント55号の、ボケ役に常識人キャラ・坂上次郎を配する役割分担の妙。立川談志の、ルールの裏側を暴いて嘲笑するアフォリズム。林家三平の、地口を駆使したなりふり構わぬボケ倒し。松元ヒロの、天皇までも標的にする果敢なツッコミ。赤塚不二夫の、本音しか存在しない狂気の世界。実例多数収録、笑いを語る基本文献の登場!
寒い公園で男女がまぐわろうとしている。
女が何か敷くものがなくちゃいやだと言うと、どこからともなく便利屋が現れて
「エー貸しゴザはいかが」と言う。
次に女が寒いと言うと「エー貸し火鉢」、
ティッシュが無いと言うと「エー高級チリ紙」、
子供ができたらどうしようと言うと「エー貸しサック」、
この調子で、女が何か不満を言うとすぐに出てきて、高い値段で貸し付ける。
しまいに、女が嫌気がさして逃げていく。
すると、また出てきて
「えー貸し女」と言って、尻をまくって……
このコントは『便利屋』。
伝説の「浅草3大コント」のうち『仁丹』『天丼』は確定しているけれども、
残りひとつには諸説があるところ、
著者の滝さんは「ストリップの合間に演(や)っていた寸劇という条件つきで」
この『便利屋』を3つ目に挙げています。
もちろん、この種のコントが面白くなるもならないも役者の腕次第。
日本から良質のコメディアンがほぼ姿を消した現状では、
テレビに取り込まれて芸人がオールボケ化してしまい、
よく練ったコントが演じられる余地はなくなってしまいました。
つまり、「笑い」の現場は観客と芸人が馴れ合うものに
矮小化されてしまったのです。
「フツーの人間が一番面白い」などと世迷い言をほざく連中から
舞台を取り戻すにはどうしたらよいか。
世間の常識と対峙する気骨ある芸人が必要だ、
と滝さんは主張します。
この本では、コント55号、赤塚不二夫、てんぷくトリオ、由利徹、
そして立川談志といった芸人たちに絶大な人望のある
喜劇界の第一人者・滝さんが豊富な実例とともに、
いま求められる芸人の資質について考えていきます。
滝さんが集大成として後世に残す喜劇論、
「笑い」を志す人もただ笑いたい人も必読です。
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