中国国内で映画を一般公開するためには、いまだに政府による検閲が必要である。しかし、中には政府による制約を嫌って、最初から検閲を通さない映画作りを目指す監督たちもいる。それらの監督の中には、カンヌやベルリン、また東京などの世界各国の映画祭で才能を高く評価されたジャ・ジャンクーやロウ・イエなどの有名中国人監督もいるが、この本ではおもに、彼らよりさらに若い世代の監督たち=『無言歌』の王兵(ワン・ビン)や『ホメられないかも』の楊瑾(ヤン・ジン)などの若手監督を中心にしたインタビューを通して、現代中国の映画製作システムが抱える問題点、中国社会の現実、映画教育に関する傾向、また政府による表現規制や上映妨害行動の実際が語られる。同時に、彼らの口から直接語られた事実から、そういった政府による制約がありながらもなお、人々に真実を伝えようと映画を作り続けていこうとする映像作家たちの態度や闘志も知ることができる。 著者は、日本でもすでに3回ほど「中国インディペンデント映画祭」を主催した実績のある映画祭ディレクター・中山大樹氏。彼は今でも中国各地を精力的に駆け回りながら、いわゆる“地下映画”の後裔とされる「独立電影」の注目作を集めている日本人であるが、そんな彼にも、中国の公安は活動の妨害を目的として忍び寄りつつある。 昨年来、日中関係は政治的に微妙な様相を呈しているが、こういう時にこそ必要なのが、普段からの一般市民レベルでの交流であり、お互いの国と人々への理解であろう。また日本においては、現代中国社会の実情を描いた映画やドキュメンタリーを観る機会が極端に少なく、そういった作品を観たいと思ってもなかなか難しい。 またこの本は、それらインタビューを中心とした書籍と同時に、著者選りすぐりの中国ドキュメンタリー映画3本を収めたDVD3枚組のセットボックスとなっていて、その内容とボリュームからしても超お買い得である。ぜひこの貴重なチャンスをお見逃しなく、そして今なお不遇な立場に置かれたままの中国人映像作家たちの闘志を応援して頂ければと思う次第である。(解説=東京フィルメックスディレクター・市山尚三)
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