東京・田園調布に、一風変わった動物病院がある。待合室を覗いてみると、 見慣れた犬や猫に混じってフクロモモンガやカメ、カエル、トカゲなどの姿 が。この動物病院では、どんな珍しい動物が来ても、可能な限り診察するとい う。著者である院長の田向健一氏は、これまで金魚やアマガエル、ウーパール ーパー、ハリネズミ、アリクイ、カワウソ、テナガザル……魚類から両生爬虫 類、哺乳類まで、100種類以上のペットを診察してきた。誰が呼んだか「珍獣 ドクター」。まだまだ未開の分野である「珍獣の医学」の世界に臆することな く、文献を調べ、経験をフルに生かし、果敢にチャレンジする。“カエルの難 病・ツボカビ症に人間用の水虫薬を応用” “金魚の手術のためにエラ呼吸専 用麻酔装置を発明”“カメの手術の際に甲羅の新しい切開方法を考案”するな ど、奇抜とも思える発想で新治療法を開発し続ける。筆者の診療日記をひも解 くと、珍獣たちの不思議な生態と意外な病気に驚かされ、それにかかわる飼い 主たちの様々な想い、そして力強くもはかないペット達の命のドキュメントが 涙を誘う。
著者は本書の中で、自身の挑戦をこう表現している。
「どんな動物が来ても引き受けようと思った。どんな動物の、どんな病気も治 療していきたい……そんなことは途方もないことに思われる。だけど、藪の中 をよろよろしながら、手探りしながらでも、目の前の草を少しずつ刈っていく と、いつか一本の道ができる。それと同じように、僕に出来る事を一つずつや っていくと、いつか『珍獣の医学』が確立するんじゃないか。遠く夢を見なが らも、目の前の現実に対して精一杯やっていく……」。
悩み、逡巡し、ときに後悔にさいなまれながらも、真摯に動物と向き合う獣 医師の診療現場。動物好きな人はもちろん、ふりがな付きなので、小学生の子 どもたちでも楽しめる。
主なエピソード
●帝王切開で生まれたリスザルの赤ちゃん
●ビー玉を飲み込んでしまったフトアゴヒゲトカゲ
●可愛い顔に似合わず、虫が大好きなフクロモモンガ
●体長2cmのアマガエルの開腹手術
●前脚を切断し3本脚になったゴールデンレトリバー
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