「夫婦の真実の姿」を描く、書下ろし長編小説 夫だけを視つめてきた。 なのに、どうして悪妻と呼ばれるのだろう。 明治の文豪・夏目漱石を支えた妻・鏡子。夫婦とは、最も近くて最も遠い存在なのか。 家庭は断じて憩いの場などではなく、戦場そのものだった。鏡子は手向かい、ずたずたに傷つき悶え呻く毎日だった。そのような鏡子の姿を見て、世間は悪妻と呼んだのか。よもや、そんなはずはあるまい。夫と自分の軋轢の真相を知る者など、誰もいやしない。――<本文より>