これぞ、由緒正しきニッポンの、心優しきエンターテインメント!
恩田陸
『黄泉がえり』の梶尾真治の新境地!
食い詰めたヤクザの一家がクジラ捕りに!
「黙って聞いてくれ。この大場会は、事務所を移転することにした」全員が、しわぶきひとつあげず、凍りついたようになっている。「だから、移転と同時に、なりたい奴はカタギの道を歩んでくれ。おまえたちをずっと養っていく力はもうない」大場会長がそこまで話すと、ううっという嗚咽がまたしても昂まった。涙声の島崎が手を上げて言った。「親父っさん。一言、いいですか?親父っさんは、『任侠』が口グセだった。世の為、人の為になれと言って、親父っさんが盃をやった連中ばかりですよ。カタギになれったって喰いっぱぐれて犯罪者になるのが関の山だ。結局は人様に迷惑をかけることになる。それでいいんですか?」「希望する奴は、わしが責任もって浦田組に紹介してやる」「会長」岩井は会長と改まった口調で言った。「会長はどうされるんですか」「日本の食文化の伝統を守る」<中略>「国が伝統守れねぇなら、わしたちが世の為、人の為守ってやらなくてどうする。カタギにはならねぇ、浦田のところへも行きたくねぇ、一緒にクジラ捕りに行きたいって奴は、連れていってもかまわねぇ。そういうこった。ただし、おまえたちで自分の道は決めろ。岩井、希望を聞いてやってくれ」――<本文より>
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