理由(わけ)などない。
三十俵二人扶持(ぶち)の戯作者気取り。家にも職場にも居所のない男が殺(あや)めた男、女…。斬れば癒される。
時代小説大賞 受賞作家が描く 渾身の書下ろし
刀を掴んだまま男が尻餅をつき、痙攣する顔で見上げたとき、作之助は思わず精を漏らしていた。 生まれて初めての経験である。 力がこもったのは身体から刀を引き抜くときであった。男が両手で刀身を掴んでいるからではなく、なにか見えない力が絡みついているようであった。思いきり男の肩を蹴るようにして、あとずさった。突然、人を殺したという実感が作之助を襲った。――(本文より)
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