新宿のキャッチバーを辞め、騙されてタコ部屋暮らしを始めた。 いまある現実をそのまま受け入れよう。 旅人の寂しさにつつみこまれて眠りにおちた。 ヒッピーもベトナム戦争も終わってなにもない'70年代、 僕は正真正銘、20歳の童貞である。 十代後半に京都に住んでいて無為徒食の日々を過ごしていた私にとって雄琴の風景は、そしてそこに棲息する人々の息遣いは、肌にじかに染みいってくるようで、なにやら微妙な悲しみの感情を覚えた記憶がある。――(花村萬月)