大政、富士のお山が喧嘩の相手ずら。
維新後、侠客の名を捨てて市中取締役となった清水次郎長。囚人を使役することに抵抗を感じながらも、一の子分・大兵(たいひょう)政五郎は富士山麓の開墾地に赴く。
山本周五郎賞候補の新鋭が描く大侠客の晩年。
次郎長は頬をゆるめた。
「おみゃあ変わったな。昔は向こう見ずだった。真先に長槍をつかんだ……」(中略)
変わったのは自分ではないと、政五郎は思った。喧嘩なら簡単だ。死ぬか生きるか、勝つか負けるか、それだけである。熱くなればそれでよかった。ところが今はもう喧嘩に駆り出されることはない。自分ではなくまわりが変わったのである。――(本文より)
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