すべて書下ろし、飛びきり新鮮な3異色作。
●井上祐美子「妃紅」から──南海のまぶしい陽光の中を、船はゆっくりとすべりだした。6月、真夏の風の中を、廈門(アモイ)の港と、その背景の風景が遠ざかる。
●塚本青史「殺青」から──司馬遷が、この険阻な蜀の桟道を通るのは2度目である。最初に来たのはもう10年以上も前だ。若さに任せて諸国を流浪し、地方に埋もれた伝説や偉人豪傑の逸話を発掘しに歩いた頃であった。
●森福都「黄飛蝗」から──東都洛陽の北、黄河の南に横たわる芒山(ほうざん)は、東西330里余りにも及ぶ大丘陵である。その芒山で飛蝗──飛び蝗が大発生したとの報が朝廷に届いたのは、開元7年の夏、麦もすっかり色づいた5月1日のことだった。
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