吉田ルイ子さんはベトナム戦争の取材中、どうしてもシャッターを押せなかったことがあった。乳を飲む子にカメラを向けたとき、母親が子どもの顔を手で覆った瞬間だそうだ。子どもにはひどい吹き出ものがあった。ちひろは、被爆した子どもや戦火にさらされた子どもを描くとき、傷ついた姿をリアルに紙の上に表すことができない人だった。作品を見ていると、ルイ子さんもちひろも、写される人、描かれる人の側に立ってものを感じることができる人なのだと思う。この本は、たんに優れた子どもの写真や絵を鑑賞するためのものではない。登場する子どもの心を共有して、そこから世の中を見つめる本だと思う。──松本猛
安曇野ちひろ美術館館長・ちひろ美術館館長代理。1951年いわさきちひろ、松本善明の長男として東京に生まれる。東京芸術大学美術学部卒。絵本評論家としても活躍している。
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