鎌倉極楽寺九十一番地

鎌倉文士と呼ばれた人々には、相当な奇行、武勇伝の持ち主もいたが、著名人だからといって横柄な人は一人もいず、市民の中に融け込んでいた。
両親を失った二十代の私は、他人の同情を受けまい、と突っ張った気持ちで暮らしていた。
私の自尊心を傷つけぬよう、細心の注意を払って心を配ってくれたのは、この奇矯な文士たちだった。私はその親切を、素直に受け入れることができた。
つらかった頃のことを思う時、懐かしい人々を感謝を持って思い出す。──著者あとがきより